僕は中2まで聖歌隊に入っていたんですが、あまり自慢できる長所は無いけど、歌だけは本当に自慢でした。
けど、いくら特異な声であっても、変声期が来てしまっては、ただの「男の声」でしかない、そう実感した時、そこには果てしない虚無感しかありませんでした。
自分には歌しかないと思っていたのに、それが断たれてしまい、慌てて苦手だった勉強を懸命に頑張りました。
自分の中の空っぽな部分を無理矢理埋める様に、本当に必死で。
頑張った甲斐あって、志望校には合格しましたが、クラスメイトと何かと距離を感じ、高校中退という苦い決断に至ったのです。
高校を辞め、暇な時間が増えると余計な事ばかり考える様になり、聖歌隊に僕を入れた母を恨みました。
入隊させられたのは音楽一家だからという理由でしたが、それなら楽器をやらせて欲しかったと思ったのです。
一応、父の勧めもあって通信制の高校に通う事にはなりましたが、色んな事情を抱えた生徒が通っているというイメージはあるものの、自分と同じ様な奴なんていないだろうと思って、周りと馴染む気は毛頭ありませんでした。
けれど、確かに自分みたいな生徒はいなかったけど、ピアノをやっているという人が一人と、小学生の頃からバンドをやっているという人が一人いて、これには本当に驚き、興味を持ちました。
ピアノの子は女の子で、音大を目指していると言っていました。
バンドをやっている人は男の子でキーボード担当、実際プレイも見せてもらったんですが、年齢を感じさせないくらいに上手かったです。
キーボードの子には、歌は聖歌隊だけじゃないよと言われ、音楽をもう一度やる様に言われました。
そんな助言もあり、今は音楽教師を目指して音大に入りました。
遠ざけていた音楽と再び向き合い、今はとても充実しています。